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わかりやすい漢方薬解説・漢方理論解説

気(き)とは

身体を構成する気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)という要素のなかでも気は多くのはたらきを担っています。このページではまず気の生成、そして気血津液論には規定されている気の主なはたらきである栄養(えいよう)作用、推動(すいどう)作用、温煦(おんく)作用、防御(ぼうぎょ)作用、固摂(こせつ)作用、気化(きか)作用について解説してゆきます。くわえて気にはその機能別に元気(げんき)、宗気(そうき)、営気(えいき)、衛気(えき)という異なった呼び名があります。この点も補足して説明してゆきます。


気の生成


私たちは日頃、食べ物や飲み物を摂取し、呼吸をすることで生きています。この流れを漢方(中医学)の視点から説明すると、まず摂取された食べ物や飲み物は五臓のひとつである脾(ひ)において水穀の気(栄養素の塊のような存在です)となります。


この飲食物を由来とする水穀の気と、呼吸によって大気から取り込まれた清気(せいき)が結合することで気が生まれます。生まれた気は脾から肺(はい)に移され、そこから全身に散布されてゆきます。その後は肝(かん)の力によって気の運行はコントロールされ、上記で紹介したような能力を発揮し、消費されてゆきます。このように飲食と呼吸によって生まれる気を後天の気と呼びます。


「後天の気」があれば「先天の気」も存在します。人間は誕生する際、両親から精(せい)という物質を受け継ぎます。精は生命エネルギーの結晶のような存在であり、腎(じん)に蔵されています。この精から生み出される気が先天の気と呼ばれるものです。生まれつき体力が充実している子は親から充分な精を受け継いだと漢方医学では解釈します。


気のはたらき


栄養(えいよう)作用

栄養作用とはその名前の通り、身体に栄養を与えて五臓六腑(ごぞうろっぷ)などがしっかりはたらけるように活力を与えるはたらきといえます。この栄養作用はしばしば血のはたらきと説明されるケースがあります。


この理由として気は津液と結合して血となり、血の姿となって身体を巡って栄養するからです。栄養作用をどちらのはたらきと定めるか議論はあるようですが、ここでは気のはたらきとします。


推動(すいどう)作用

推動作用とは主に血や津液を身体中に巡らすはたらきです。したがって、血や津液は気の助けがないとしっかり巡ってゆくことが出来ないということです。停滞した血と津液はその力を発揮できないだけではなく、悪影響を及ぼしてしまいます。


冒頭で「推動作用は主に…」としました。その理由として推動作用は血と津液以外にも成長に関わったり、五臓が活発に動くための原動力にもなっているからです。つまり、ダイナミックな生命活動全般に推動作用は貢献しているのです。


温煦(おんく)作用

温煦作用とは身体を温めるはたらきです。気が存在することによって体温は一定に保たれます。ちなみにあまり見ることのない「煦」の文字には「あたためる」という意味があります。


防御(ぼうぎょ)作用

防御作用とは外邪(がいじゃ)から身体を守るはたらきです。ここで登場した外邪とは寒邪(かんじゃ)・暑邪(しょじゃ)・火邪(かじゃ)・湿邪(しつじゃ)・燥邪(そうじゃ)・風邪(ふうじゃ)からなる六淫の邪を指します。より具体的には強い暑さや寒さといった人体に害となる環境要因のことであり、気が充実していれば防御作用によって簡単に体調を崩さずに済みます。


固摂(こせつ)作用

固摂作用とは身体にとって必要なものを身体内にしっかり保持するはたらきです。「身体にとって必要なもの」とは血や津液、汗や尿、さらに内臓などが含まれます。


気化(きか)作用

気化作用とは主に気・血・津液・精の相互に変換されることを指します。具体的には血は気から生まれますが、血から気へも生まれ変わるケースなどが挙げられます。くわえて気化作用にはもうひとつの意味があり、不要な水分を尿や汗として排出するはたらきが含まれます。


気の名称


元気(げんき)

皆さんもご存じのとおり、日常生活において「元気」という言葉は頻繁にもちいられています。その意味としては体力そのものや健康状態の高さを示すものではないでしょうか。一方の漢方(中医学)における元気にはより厳密な定義があります。


漢方(中医学)における元気のはたらきは生命活動を営むための最も基本的な原動力といえます。元気は両親から受け継がれ、生きてゆくうえで消費されてゆきます。そして、私たちは飲食を通じて気を生み出し一部は元気となって補充されます。しばしば元気は原気(げんき)や真気(しんき)とも呼ばれます。


宗気(そうき)

宗気は主に呼吸を行ったり血を身体中に巡らすための気といえます。その他にも身体を動かしたり、視覚や聴覚といった機能も支えています。このようなはたらきを持つ宗気は動気(どうき)とも呼ばれます。


営気(えいき)

営気は身体を栄養する気であり、栄養作用を発揮する気のことを指します。このはたらきは前出の通り、血の機能とも呼べるので営気は営血(えいけつ)とも呼ばれます。


衛気(えき)

衛気の主なはたらきは外邪の侵入を阻んだり、侵入した外邪を追い出すものです。気の防御作用はこの衛気が担っています。その他にも衛気は身体を温めたり、発汗の調節も行っています。したがって、衛気は温煦作用にも深く関わっていることになります。


気のまとめ


ここまでざっと気のはたらきや名称などを挙げてきました。やや抽象的な表現も多くなってしまい混乱しやすいかと思います。一方で重要な点は気が多彩なはたらきを担っていることをいつも認識しておくことだと思います。特に推動作用や固摂作用は血と津液とも強く関係しているので重要です。温煦作用と防御作用の低下はそれぞれ冷え性(冷え症)や病気のかかりやすさという、日常的に問題となるポイントに関わってくるので忘れてはいけない機能といえます。


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気の異常(気虚・気滞・気逆)

このページでは気に生じる異常とその治療にもちいられる代表的な漢方薬を解説してゆきます。気の異常は主に気の不足である気虚(ききょ)、気の滞りである気滞(きたい)、気の循環異常である気逆(きぎゃく)が挙げられます。現実的にはそれぞれのトラブルは深く関連し合っており、複数の気の異常にくわえて血(けつ)や津液(しんえき)のトラブルが同時に現れることもしばしばです。


気虚(ききょ)とは


気虚とは気が不足している状態を指します。気虚の主症状は疲労感や、食欲不振、病気への抵抗力の低下などが代表的です。気の不足が深刻化すると温煦(おんく)作用が低下し、冷え性(冷え症)が顕著になります。このような状態を陽虚(ようきょ)と呼びます。気虚や陽虚におちいる主な原因には過労や睡眠不足、先天的な消化器の弱さ、病気の長患い、老化などが挙げられます。


気虚を改善する漢方薬

気虚を改善する漢方薬は補気剤(ほきざい)と呼ばれます。補気剤とは主に人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)などの気を補う生薬を含む漢方薬です。冷えが強い陽虚の場合は身体を温める力に優れた附子(ぶし)、桂皮(けいひ)、乾姜(かんきょう)、呉茱萸(ごしゅゆ)などを含んだ漢方薬がより適しています。


具体的な補気剤としては補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、六君子湯(りっくんしとう)、参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)、啓脾湯(けいひとう)などが挙げられます。陽虚に対しては人参湯(にんじんとう)、真武湯(しんぶとう)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、八味地黄丸(はちみじおうがん)などがもちいられます。


気滞(きたい)とは


気滞(きたい)とは気の流れが停滞している状態を指します。気滞(きたい)の主症状は胸や腹部の張り感や痛み、喉のつまり感、食欲不振、吐気や嘔吐、下痢や便秘などが挙げられます。気滞のうちで精神的な症状がより強いケースを肝気鬱結(かんきうっけつ)と呼び区別をします。肝気鬱結に含まれる症状としては憂うつ感、イライラ感、寝つきの悪さ、頭痛、めまい、のぼせ感、女性の場合は生理不順や生理痛、乳房の張り感などが代表的です。


気滞や肝気鬱結を引き起こす主な原因は精神的なストレスです。その他にも暴飲暴食や生活リズムの乱れなどが含まれます。これらは現代人と切っても切り離せないものであり、私たちは気滞に陥りやすい時代に生きているといえます。


気滞を改善する漢方薬

気滞を改善する漢方薬は理気剤(りきざい)と呼ばれます。理気剤とは主に柴胡(さいこ)、厚朴(こうぼく)、半夏(はんげ)、薄荷(はっか)、枳実(きじつ)、香附子(こうぶし)などの気の巡りを改善する生薬を含んだ漢方薬です。精神症状を中心とする肝気鬱結の改善には特に柴胡や芍薬(しゃくやく)をペアで含んだ漢方薬が有効です。


具体的な理気剤としては四逆散(しぎゃくさん)、香蘇散(こうそさん)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、逍遥散(しょうようさん)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)などが挙げられます。


気逆(きぎゃく)とは


気逆(きぎゃく)とは気の循環が乱れ、下降しなければならなかった気が逆流し上昇してしまう状態を指します。気逆の主症状としては頭痛、めまい、動悸、激しい咳、呼吸困難、吐気や嘔吐、ゲップなどが挙げられます。気逆はしばしば「気の上衝(じょうしょう)」とも呼ばれます。


気逆を改善する漢方薬

気逆の改善には桂枝(けいし)を含んだ漢方薬が主にもちいられます。この桂枝とはクスノキ科のケイ、いわゆる「シナモンの木」の枝をもちいた生薬です。日本においては多くの場合、桂枝ではなくケイの樹皮である桂皮が代用されています。


具体的な気逆の治療にもちいられる漢方薬としては苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)などが挙げられます。


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血(けつ)とは

血(けつ)の生成


血(けつ)が生まれるルートは2つに分けられます。ひとつは脾(ひ)で生まれた気が土台となって生まれるルートです。摂取された飲食物は脾のはたらきで気と津液(しんえき)に生まれ変わります。この気と津液の一部が結び付き血が生まれます。生み出された血は心(しん)に送られ、心の力で全身に送り出されます。その後は肝(かん)のコントロールを受けてスムーズに巡り、全身を栄養してゆきます。


血が生み出されるもうひとつのルートは精(せい)を由来とするものです。腎(じん)に蓄えられている精からは気(先天の気)だけではなく血も生まれます。精の一部は血となり、心に運ばれ上記と同様に全身を巡ってゆきます。精は一方的に消費されてゆくわけではなく、脾で生まれた気の一部が精となって補充もされます。


血のはたらき


血のはたらきは大きく2つに分けられます。ひとつは身体を栄養するはたらき、もうひとつは精神状態を安定化させるはたらきです。前者の栄養作用のおかげで五臓六腑を含む身体は活性化され、生命活動が営まれます。その他にも髪・肌・爪などに潤いを与えているのも血のはたらきです(厳密には津液のはたらきでもあります)。これらのはたらきは西洋医学的な血液の機能と非常によく似ています。


一方で後者の精神状態を維持するはたらきは血液のイメージと距離があるといえるでしょう。漢方(中医学)において、血が充実することによってしっかりと意識が保たれ、スムーズな睡眠がとれ、五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)が研ぎ澄まされます。


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血の異常(血虚・瘀血)

血(けつ)における主な異常は血の不足した状態である血虚(けっきょ)、そして血が停滞した状態である瘀血(おけつ)です。このページでは血虚と瘀血の解説にくわえて、これらを改善する代表的な漢方薬を挙げてゆきます。


血虚(けっきょ)とは


血虚とは身体を栄養する血が不足してしまっている状態を指します。血虚の主症状としては疲労感、めまいや立ちくらみ、顔色の悪さ、肌乾燥、眼精疲労やドライアイ、爪の割れやすさ、抜け毛や白髪、不安感、眠りの浅さ、女性の場合は生理不順や無月経などが代表的です。血は気から生まれ、血は気に変化もします。したがって、血虚の慢性化は次第に気虚(ききょ)、つまり気の不足を引き起こしてしまいます。このような状態を気血両虚(きけつりょうきょ)と呼びます。


血が不足してしまう主な原因は消化器の不調、病気の長患い、過労、出血などが挙げられます。女性の場合は出産や生理によって血を失いやすいので、男性と比較して血虚に陥りやすいといえます。


血虚を改善する漢方薬

血虚を改善する漢方薬は補血剤(ほけつざい)と呼ばれます。補血剤とは主に地黄(じおう)、芍薬(しゃくやく)、当帰(とうき)、阿膠(あきょう)、竜眼肉(りゅうがんにく)、酸棗仁(さんそうにん)などを豊富に含んだ漢方薬です。多くの場合、補血剤には血を補うだけではなく、後述する血を巡らす生薬もあわせて配合されます。この理由は、血は存在するだけではなく、しっかりと全身を巡ることによってはじめて身体を栄養することができるからです。


具体的な補血剤としては四物湯(しもつとう)、芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)、当帰飲子(とうきいんし)、七物降下湯(しちもつこうかとう)などが挙げられます。婦人科系のトラブルに繁用される当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遥散(かみしょうようさん)、温経湯(うんけいとう)、芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)なども補血作用を持つ漢方薬です。


血だけではなく気の不足も顕著な場合は十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、帰脾湯(きひとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)といった気血双補剤(きけつそうほざい)がより適しています。


瘀血(おけつ)とは


瘀血とは血の巡りが悪くなっている状態を指します。瘀血の主症状は肩凝り、頭痛、冷えのぼせ、皮下出血やあざのできやすさ、肌の暗色化、女性の場合は生理痛や生理不順、不正性器出血などが挙げられます。


瘀血が引き起こされる主な原因としては気虚(ききょ)や気滞(きたい)、血虚、冷え、外傷などが代表的です。気虚や気滞といった気の異常が起こると、気の推動(すいどう)作用が充分に発揮されなくなり血が滞ってしまいます。外傷には打ち身やねんざ以外に手術も含まれます。


瘀血を改善する漢方薬

瘀血を改善する漢方薬は活血剤(かっけつざい)と呼ばれます。しばしば活血剤は駆瘀血剤(くおけつざい)とも呼ばれます(中医学では活血剤、日本の漢方では駆瘀血剤と呼ばれることが多いです)。

活血剤とは主に当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、桃仁(とうにん)、牡丹皮(ぼたんぴ)、紅花(こうか)、延胡索(えんごさく)、大黄(だいおう)などを多く含んだ漢方薬です。瘀血は気滞によって引き起こされることがとても多いので、活血剤には気の巡りを改善する生薬が一緒に含まれるケースが多いです。


具体的な活血剤としては桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、折衝飲(せっしょういん)、通導散(つうどうさん)、芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)などが挙げられます。上記でも登場した当帰芍薬散、加味逍遥散、温経湯も強くはありませんが活血作用を持った漢方薬です。


瘀血と血瘀(けつお)


上記では瘀血についての解説を行いましたが、似て非なるものとして血瘀という言葉があります。瘀血とは厳密な定義に従えば血の流れが停滞して生まれた病的産物のことであり、血瘀はそれによって生じる病的な状態を指します。たとえるなら(あまり良い例が浮かばなかったのですが…)、決壊してしまった堤防という「物体」が瘀血であり、その結果として起こっている洪水という「状態」が血瘀というイメージです。


この定義に従えば上記のタイトルも「血瘀とは」「血瘀を改善する漢方薬」が正しいことになります。しかしながら、主に日本漢方においてはあまり両者を区別せず、どちらも「瘀血」とまとめて表現することが多いです。このページにおいては混乱を避ける意味でもすべて瘀血に統一して解説を行いました。今後も用語としては瘀血をもちいて解説を進めてゆきます。


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津液(しんえき)とは

津液(しんえき)の生成


津液(しんえき)は気と同様に脾(ひ)で生まれます。摂取された食べ物や飲み物は脾で水穀の気となり、その中の液体成分が津液となります。生まれた津液は肺へと運ばれ、そこから三焦(さんしょう)と呼ばれる気や津液が利用できる通路を介して全身に散布されてゆきます。三焦を経て身体を巡った津液は腎(じん)において一部は尿として排出され、まだ利用できる津液は再び身体中を循環してゆきます。


津液のはたらき


津液は身体内における血以外の水分のことを指し、その充実によって身体は潤いや柔軟性を与えられます。充分な津液が身体に満ちていれば肌、喉、眼、髪などはみずみずしい状態となります。その他にも関節などがスムーズに動かせるのもそこに津液が満たされているからです。なお、身体に潤いをあたえるはたらきについては津液だけではなく血にも備わっています。


しばしば津液は水(すい)とも呼ばれ、意味としても津液と同じように扱われます。日本漢方においては気・血・津液よりも気・血・水という呼び方の方が一般的です。津液と水の例以外にも漢方(中医学)には同じ意味なのに複数の呼び名があったり、同じ言葉なのに異なった意味が含まれているケースがとても多いので注意が必要です。


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津液の異常(津液不足・水湿・湿熱)

津液(しんえき)における異常は大きく分けて3つが挙げられます。ひとつは津液が不足している津液不足(しんえきぶそく)、もうひとつは津液の巡りが滞っている水湿(すいしつ)、そして最後は水湿と熱邪が合体した状態である湿熱(しつねつ)です。このページではこれらの内容、解決するための漢方薬などを中心に解説してゆきます。


津液不足(しんえきぶそく)とは


津液不足とはその名の通り、津液が不足した状態を指します。気の不足が気虚(ききょ)、血(けつ)の不足が血虚(けっきょ)であるのと同様に津虚(しんきょ)と呼ばれることもありますが津液不足の方が広くもちいられています。


津液不足の主症状としては喉の渇き、肌や唇の乾燥、尿量の減少、便秘、ほてり感などが挙げられます。津液不足による諸症状は身体の乾燥感と熱感をともなうものとまとめることができます。これは津液と血は身体に潤いを与えるのと同時に、ゆるやかに気の持つ熱性をクールダウンしているからです。津液や血が不足してしまうと気の熱性が相対的に過剰となり、不快なほてり感といった症状が現れやすくなります。このような熱性の症状を虚熱(きょねつ)と呼びます。


津液不足が起こってしまう主な原因としては熱中症などによる脱水、下痢や嘔吐、出血、炎症や発熱をともなう慢性病、継続的な精神的興奮、加齢などが考えられます。


津液不足を改善する漢方薬

津液不足を改善する漢方薬は滋陰剤(じいんざい)と呼ばれます。この理由として、血や津液は陰陽論において気の「陽」と対極をなす「陰」の存在であるからです。しばしば、血と津液をまとめて陰液(いんえき)と呼ぶのはこのためです。


滋陰剤とは主に麦門冬(ばくもんどう)、天門冬(てんもんどう)、地黄(じおう)、人参(にんじん)、五味子(ごみし)などを豊富に含んだ漢方薬です。具体的な滋陰剤としては麦門冬湯(ばくもんどうとう)、滋陰降火湯(じいんこうかとう)、六味地黄丸(ろくみじおうがん)などが挙げられます。現実的には津液のみを補う漢方薬はあまりなく、多くの場合は気や血を補う生薬も含まれた形となります。


水湿(すいしつ)とは


水湿(すいしつ)とは津液の流れが停滞している状態を指します。水湿による主症状としてはむくみ、重だるさ、頭痛や頭重感、下痢や軟便、吐気や嘔吐、食欲不振、めまい、動悸、水っぽい鼻水、咳や痰、湿疹、関節の鈍痛や動かしにくさなどが挙げられます。


人間の身体は水分に満ちているので、その停滞である水湿においてはとても多彩かつ複雑な症状が現れるという特徴があります。そのため「奇病や慢性的な病気には水湿を疑え」といわれるほどです。その他にも水湿による諸症状は湿度が高まる雨の日に悪化しやすい傾向があります。日本は大陸国の中国と比べて湿度が高いので、水湿による悪影響を受けやすい環境といえます。


水湿が引き起こされる主な原因は水分の摂り過ぎ、先天的な胃腸虚弱、湿気の強い職場や住宅といった生活環境などが挙げられます。津液は気の力によって巡っているので、その機能不全である気滞や気虚から水湿に至ってしまうケースも多いです。


水湿を改善する漢方薬

水湿を改善する漢方薬は利水剤(りすいざい)や化湿剤(かしつざい)と呼ばれます。利水剤とは主に白朮(びゃくじゅつ)、蒼朮(そうじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、猪苓(ちょれい)、沢瀉(たくしゃ)などを豊富に含んだ漢方薬です。


具体的な利水剤としては五苓散(ごれいさん)、胃苓湯(いれいとう)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)などが挙げられます。利水剤には分類されませんが利水作用を持つ漢方薬としては当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、真武湯(しんぶとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)、桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)などが挙げられます。


「水湿」という名称について

本ホームページにおいて津液の停滞した状態を「水湿」と説明してきましたが、ほぼ同様の意味を持つ言葉はいくつか存在します。具体的には痰飲(たんいん)、水腫(すいしゅ)、湿(しつ)が挙げられます。厳密には停滞した津液が局所的(主に肺)に存在しているのが痰飲、体表面付近(肌の近く)に集まっているのが水腫、そして全身にまんべんなく存在しているのが湿と説明されます。


しかしながら、これらの区別はアバウトなもので文献によって解釈の異なるケースもしばしばです。日本においては水毒(すいどく)や水滞(すいたい)という呼び名がより一般的です。


湿熱(しつねつ)について


湿熱はその名前が示す通り、水湿と熱邪(ねつじゃ)が結びついた状態を指します。この熱邪とは炎症症状を引き起こすものと表現できます。したがって、湿熱による主症状は食欲不振、吐気や嘔吐、口内炎、胃痛や腹痛、悪臭や膿をともなう便、頻回の便通、粘り気のある痰をともなう咳、ネバネバした鼻汁による鼻閉、ジュクジュクとした湿疹、排尿痛、頻尿や排尿困難、イライラ感などが挙げられます。いくつかの症状を挙げましたが、湿熱は消化器系の症状を起こしやすいという特徴があります。


湿熱が引き起こされる主な原因としては水湿の慢性化、アルコール類や辛くて脂肪分の高い食べ物の摂り過ぎ、肥満、感染症などが挙げられます。中高年の方を中心に問題となるメタボリックシンドロームも湿熱と結びつきやすいといえます。


湿熱を改善する漢方薬

湿熱を改善する漢方薬は主に利水剤に熱を鎮める清熱薬(せいねつやく)をくわえたものとなります。しばしばもちいられる清熱薬としては黄芩(おうごん)、黄連(おうれん)、黄柏(おうばく)、山梔子(さんしし)、竜胆(りゅうたん)、大黄(だいおう)、石膏(せっこう)などが挙げられます。


具体的な湿熱を改善する漢方薬としては竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)、五淋散(ごりんさん)、消風散(しょうふうさん)、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)、茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)などが挙げられます。


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精(せい)と腎虚(じんきょ)とは

これまで気・血(けつ)・津液(しんえき)のはたらきを中心に解説をおこなってきました。これらと並ぶ重要物質に精(せい)が存在します。漢方(中医学)の入門書では省略されていることもありますが、非常に大切なポイントでもあるので気血津液論の最後に精について補足してゆきます。


精(せい)とは


精とは五臓における腎(じん)に蓄えられている生命エネルギーの結晶のような存在で、ここから気や血が生み出されます。精は腎に収められているので腎精(じんせい)や腎陰(じんいん)、または真陰(しんいん)などとも呼ばれます。


精を獲得するルートは2つ存在します。ひとつは誕生の際に両親から受け継ぐ先天の精、もうひとつは誕生後に飲食を通じて補われる後天の精です。先天の精は上記の通り、誕生直後から備わっている精であり人間が成長・発育してゆく原動力となります。後天の精は食べ物や飲み物を摂ることによって作られる気や血の一部が生まれ変わったものです。精は生命活動を営む上で消費されてゆきますが、日々補充もされるのです。


腎虚(じんきょ)とは


精の異常はその不足である腎虚の状態を指します。腎虚の症状は成長・発達の遅れや老化に集約されます。乳幼児期における腎虚の症状は五遅(ごち)と呼ばれる「起立の遅れ」「歩行の遅れ」「言葉の遅れ」「発毛の遅れ」「歯の生え揃えの遅れ」などに代表されます。その他にも泉門の閉鎖の遅れ、夜尿症、骨や筋肉の形成不全なども腎虚に含まれます。


成人以降の主な腎虚の症状としては疲れやすさ、腰痛や腰の重だるさ、頻尿や夜間尿、記憶力の低下、視覚や聴覚の低下、精力の低下、白髪や抜け毛の増加、女性の場合は早期の閉経などが挙げられます。若年層の男女における原因不明の不妊症も多くの場合、腎虚が根底にあると考えられます。加齢とともに腎虚に陥ってしまうのは避けがたいことであり、自然なことでもあります。一方で壮年期において上記のような腎虚の症状が目立つ場合は問題となります。


腎虚を改善する漢方薬

腎虚を改善する漢方薬は補腎剤(ほじんざい)と呼ばれます。補腎剤とは主に地黄(じおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)、枸杞子(くこし)、鹿茸(ろくじょう)などを豊富に含んだ漢方薬です。具体的な補腎剤としては八味地黄丸(はちみじおうがん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、六味地黄丸(ろくみじおうがん)、杞菊地黄丸(こきくじおうがん)、味麦地黄丸(みばくじおうがん)、知柏地黄丸(ちばくじおうがん)などが挙げられます。


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