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わかりやすい漢方薬解説・漢方理論解説

気の異常(気虚・気滞・気逆)

このページでは気に生じる異常とその治療にもちいられる代表的な漢方薬を解説してゆきます。気の異常は主に気の不足である気虚(ききょ)、気の滞りである気滞(きたい)、気の循環異常である気逆(きぎゃく)が挙げられます。現実的にはそれぞれのトラブルは深く関連し合っており、複数の気の異常にくわえて血(けつ)や津液(しんえき)のトラブルが同時に現れることもしばしばです。


気虚(ききょ)とは


気虚とは気が不足している状態を指します。気虚の主症状は疲労感や、食欲不振、病気への抵抗力の低下などが代表的です。気の不足が深刻化すると温煦(おんく)作用が低下し、冷え性(冷え症)が顕著になります。このような状態を陽虚(ようきょ)と呼びます。気虚や陽虚におちいる主な原因には過労や睡眠不足、先天的な消化器の弱さ、病気の長患い、老化などが挙げられます。


気虚を改善する漢方薬

気虚を改善する漢方薬は補気剤(ほきざい)と呼ばれます。補気剤とは主に人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)などの気を補う生薬を含む漢方薬です。冷えが強い陽虚の場合は身体を温める力に優れた附子(ぶし)、桂皮(けいひ)、乾姜(かんきょう)、呉茱萸(ごしゅゆ)などを含んだ漢方薬がより適しています。


具体的な補気剤としては補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、六君子湯(りっくんしとう)、参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)、啓脾湯(けいひとう)などが挙げられます。陽虚に対しては人参湯(にんじんとう)、真武湯(しんぶとう)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、八味地黄丸(はちみじおうがん)などがもちいられます。


気滞(きたい)とは


気滞(きたい)とは気の流れが停滞している状態を指します。気滞(きたい)の主症状は胸や腹部の張り感や痛み、喉のつまり感、食欲不振、吐気や嘔吐、下痢や便秘などが挙げられます。気滞のうちで精神的な症状がより強いケースを肝気鬱結(かんきうっけつ)と呼び区別をします。肝気鬱結に含まれる症状としては憂うつ感、イライラ感、寝つきの悪さ、頭痛、めまい、のぼせ感、女性の場合は生理不順や生理痛、乳房の張り感などが代表的です。


気滞や肝気鬱結を引き起こす主な原因は精神的なストレスです。その他にも暴飲暴食や生活リズムの乱れなどが含まれます。これらは現代人と切っても切り離せないものであり、私たちは気滞に陥りやすい時代に生きているといえます。


気滞を改善する漢方薬

気滞を改善する漢方薬は理気剤(りきざい)と呼ばれます。理気剤とは主に柴胡(さいこ)、厚朴(こうぼく)、半夏(はんげ)、薄荷(はっか)、枳実(きじつ)、香附子(こうぶし)などの気の巡りを改善する生薬を含んだ漢方薬です。精神症状を中心とする肝気鬱結の改善には特に柴胡や芍薬(しゃくやく)をペアで含んだ漢方薬が有効です。


具体的な理気剤としては四逆散(しぎゃくさん)、香蘇散(こうそさん)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、逍遥散(しょうようさん)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)などが挙げられます。


気逆(きぎゃく)とは


気逆(きぎゃく)とは気の循環が乱れ、下降しなければならなかった気が逆流し上昇してしまう状態を指します。気逆の主症状としては頭痛、めまい、動悸、激しい咳、呼吸困難、吐気や嘔吐、ゲップなどが挙げられます。気逆はしばしば「気の上衝(じょうしょう)」とも呼ばれます。


気逆を改善する漢方薬

気逆の改善には桂枝(けいし)を含んだ漢方薬が主にもちいられます。この桂枝とはクスノキ科のケイ、いわゆる「シナモンの木」の枝をもちいた生薬です。日本においては多くの場合、桂枝ではなくケイの樹皮である桂皮が代用されています。


具体的な気逆の治療にもちいられる漢方薬としては苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)などが挙げられます。


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文・女性とこどもの漢方学術院(吉田健吾)