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わかりやすい漢方薬解説・漢方理論解説

●補腎剤(ほじんざい)について

補腎剤とは五臓六腑(ごぞうろっぷ)における腎(じん)のはたらきが低下した状態である腎虚(じんきょ)を改善する漢方薬です。腎のはたらきはその中に収められている精(せい)に大きく依存しており、精の減少は腎虚と同義です。したがって、補腎剤は減少してしまった精を補う漢方薬ともいえます。


上記で挙げた精とは生命エネルギーの結晶のような存在であり、成長や発育、そして生殖活動に必須の物質です。その他にも精からは気や血も生み出され、骨や脳の形成、聴覚や視覚の維持にも貢献しています。このような生命活動の土台である精の減少は老化の進行とほぼイコールの関係といえます。したがって、補腎剤は現代風に表現するなら「アンチエイジング薬」といえるでしょう。


一方で腎虚は高齢者だけの問題ではなく、若年層にもみられます。具体的には原因不明の不妊症やED(勃起不全)といった生殖活動にまつわるトラブルにはしばしば腎虚が関係しています。


乳幼児における腎虚は五遅(ごち)と呼ばれる「起立の遅れ」「歩行の遅れ」「言葉の遅れ」「発毛の遅れ」「歯の生え揃えの遅れ」に代表されます。その他にも泉門の閉鎖の遅れ、夜尿症、骨や筋肉の形成不全なども乳幼児に特徴的な腎虚の症状といえます。


上記以外の腎のはたらきとしては身体内の津液(しんえき)の循環を促したり、排尿によって不要な水分を排泄したりもします。他には呼吸、特に大気から気を取り込む吸気にも腎は関係しています。


補腎剤の構成は補腎益精薬(ほじんえきせいやく)を中心に、冷えが目立つようなら身体を温める補陽薬(ほようやく)、不快な熱感があるなら清熱薬(せいねつやく)などが組み合わされます。


代表的な補腎益精薬は地黄(じおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)、鹿茸(ろくじょう)などが挙げられます。補腎益精薬の中でもマンシュウジカなどから採れる、伸び盛りの角である鹿茸は精を補う力に秀でています。補陽薬(ほようやく)には附子や桂皮、清熱薬には知母(ちも)や黄柏(おうばく)などが代表的です。


汎用される補腎剤としては六味地黄丸(ろくみじおうがん)、八味地黄丸(はちみじおうがん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)、知柏地黄丸(ちばくじおうがん)、味麦地黄丸(みばくじおうがん)などが挙げられます。なお分類上、六味地黄丸は滋陰剤(じいんざい)に含まれることも多いです。

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文・女性とこどもの漢方学術院(吉田健吾)