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わかりやすい漢方薬解説・漢方理論解説

麦門冬湯(ばくもんどうとう)

麦門冬湯の出典


金匱要略


麦門冬湯の構成生薬


麦門冬8-10、半夏5、粳米5-10、大棗2-3、人参2、甘草2


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より
※単位は1日当たりのグラム


麦門冬湯の効能・効果


体力中等度以下で、たんが切れにくく、ときに強くせきこみ、又は咽頭の乾燥感があるものの次の諸症:からぜき、気管支炎、気管支ぜんそく、咽頭炎、しわがれ声


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より


麦門冬湯の処方解説


麦門冬湯は主に肺と胃における津液不足(しんえきぶそく)と、気の不足である気虚(ききょ)を改善する漢方薬です。肺を潤す津液(しんえき)が不足すると咳が出たり、切りにくい痰が生じやすくなります。胃の津液が不足すると口の渇き、唾液の減少、胃の不快感、乾嘔(からえずき)、食欲の低下などが起こりやすくなります。麦門冬湯はこのような諸症状を改善することができます(上記の効能・効果にはなぜか消化器系の適応はありませんが…)。


麦門冬湯はしばしば「咳止めの漢方薬」と考えられがちですが、どんな咳にも有効なわけではありません。麦門冬湯が効果を発揮するのは、乾燥した咳が出始めると連続して出て、苦しくて顔を赤くするような病態に対してです。


くわえて痰の量は少ないか痰自体がなく、痰がある場合は潤いが少ないので粘りがあり、切りにくい(吐き出しにくい)ものとなります。水っぽくて透明な痰がいっぱい出てすぐにティッシュペーパーがなくなってしまうようなケース、ドロドロとして臭いを放ち、色の濃いような痰が出るケースには不適です。


麦門冬湯の中心となる生薬はその名前の通り、麦門冬であり肺や胃に津液を与えます。人参、大棗、粳米、甘草は気を補いつつ、脾胃(消化器)の機能を向上させます(人参には気だけではなく津液を補う力もあります)。脾胃のはたらきが良くなれば、結果的に飲食物から効率よく気と津液が生み出されるようになります。


そして半夏には咳や吐気を鎮める優れた作用があります。一方、半夏は身体を乾燥させる作用もあるのですが、麦門冬湯においてはその他の生薬が発揮する潤いを与える作用が勝ります。結果として乾燥作用を抑制し、うまく半夏の持つ鎮咳・止嘔作用が生かされます。


麦門冬湯における補足


麦門冬湯は津液を補うことで身体に潤いを与えることができる漢方薬です。上記で解説した通り、主に乾燥性の咳や粘稠性の高い痰の改善に有効です。その他にも麦門冬湯の潤性を生かしてドライアイやドライマウスにもしばしば応用されます。


その際、より潤性を高めるため、津液だけではなく血(けつ)も含めた陰液全体を補うことを目的に代表的な補血剤(ほけつざい)である四物湯(しもつとう)などと併用されることも多いです。

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文・女性とこどもの漢方学術院(吉田健吾)