私たち(一般社団法人)女性とこどもの漢方学術院は漢方薬を通じて女性とこども達の健康を支えます。 | 女性とこどもの漢方学術院

こどもと漢方薬

「漢方薬」という言葉から「お爺さんやお婆さんが腰痛を治すために服用している」ようなイメージを連想される方は多いかもしれません。それは間違ったイメージではありませんが、正確なイメージでもありません。

漢方薬は若い方、その中でもこども達に有益なものが意外なほど多いのです。こちらのページではそのようなこども達の健康を守る漢方薬をご紹介いたします。

脅かされるこども達の健康

最近、近所の公園に「ボール遊び禁止」「水遊び禁止」、そして「大声を出すのは控えましょう」という注意書きが掲示されていて少々驚きました。しばしばこども達の運動能力の低下が指摘されていますが、この注意事項を見るとそれは必然であると感じられます。

運動不足だけではなく、睡眠時間の短縮も顕著になっています。厚生労働省の行っている21世紀出生児縦断調査には5歳のこども達の70%超が21時以降に就寝しているというデータがあります。こども達の生活リズムは一緒に生活している親(大人)の影響を強く受けていることを同調査は示唆しています。

今日、私たち大人が生活している環境は健康的なものとはなかなか言えないでしょう。デスクワーク中心の勤務による運動不足、労働時間の延長による睡眠不足、そして食生活の乱れ、精神的な負担の増加。これら大人社会の問題は大人社会「だけ」の問題とは言い切れないのです。

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こども達の健康問題を考える前

こども達の健康と五臓

にそもそも「健康」とはどのような状態なのでしょうか。非常に難しい問いですが漢方医学的に健康とは「気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)が質的にも量的にも充実していること」と考えます。

もう少し具体的に表現すると気・血・津液がスムースに身体を流れており、極端に不足していたり過剰になっていない状態といえます。この定義は程度の差はありますが老若男女を問わず共通しています(より詳しくは「わかりやすい漢方薬解説・漢方理論解説」のページを参照)。

漢方医学における健康の定義は年齢や性別を問いませんでしたが、それぞれが持つ体質となると話は別です。こども達の体質は漢方医学では「二余三不足」と表現されます。これは気・血・津液を生み出して巡らしている五臓(ごぞう)の働きが大人とは違い、こども達独特の偏りがあることを示しています。この点にこども達の健康と病気を考える鍵があります。

ここから少し漢方医学独特の考え方である五臓や気・血・津液を簡単に解説しながら、こども達の健康がどのように維持されているのかを見てゆきましょう。

肝(かん)肝は生命エネルギーのような存在である気を身体中にスムースに流す司令塔のような働きを担っています。肝が正常に機能していれば気も順調に身体中を巡り、心身ともに安定した状態となります。

心(しん)心は栄養素の源である血を身体中に巡らします。それ以外にも意識をハッキリと保ち、精神状態を安定させるという大切な機能をつかさどっています。

脾(ひ)脾は消化器全体をまとめたようなイメージであり、食べ物や飲み物から気・血・津液を生み出すという重責を背負っています。いわば脾は身体内における加工工場のような存在です。

肺(はい)肺は気や身体を潤す津液をスプリンクラーのように身体中に拡げてゆきます。拡散された気は外邪(西洋医学的に表現するとウイルスやアレルゲンなど)と戦い、津液は肌に潤いを持たせます。

腎(じん)腎は不要となった水分を排泄するだけではなく、その中に精(せい)を保持しています。精は生命エネルギーの結晶のような存在で、そこから成長に不可欠な気・血・津液が生まれます。

ざっと五臓や気・血・津液の働きを挙げてみましたが、一気に理解するのはなかなか難しいかもしれません。簡単な全体のイメージとしては食べ物や飲み物から五臓が気・血・津液を生み出してそれらを巡らしてゆきます。そして気・血・津液は働きの違いはありますが生きるために消費されてゆく存在といえます。

上記で挙げた二余三不足とはこども達は五臓における肝と心が暴走を起こしやすく、脾と肺と腎の働きが弱まりやすいという意味を指します。この五臓のバランスの乱れがこども達の健康を揺さぶる元凶にもなるのです。

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こども達に多い健康のトラブル

ここからはもう少し、具体的にこども達に起こりがちな健康のトラブルを見てゆきましょう。まず例として挙げるのは虚弱体質、アレルギー体質、そして癇癪(かんしゃく)体質の3つですが、ポイントとなってくるのはやはり二余三不足です。

虚弱体質 「虚弱体質」と書いてしまうとやや抽象的ですが、いつも風邪をひいていて元気や覇気がないようなイメージはすぐに浮かぶのではないでしょうか。漢方医学的に考えればこれは文字通り気が不足した状態です。この状態を気虚(ききょ)と呼びます。
気は後天的には飲食物が脾の働き、つまりは消化器を経て作られます。先天的には腎に蓄えられている精からも気は生まれます。つまり、脾や腎の働きが充分でなければ気虚(虚弱体質)に陥ってしまうのです。
気は身体機能を維持するだけではなく、外敵から身を守るバリアのような働きも担っています。したがって、気虚の状態のままだとすぐに風邪や感染性の胃腸炎などにかかってしまいます。
アレルギー体質 「アレルギー体質」という言葉もまたやや抽象的ですが、ここでは主には花粉症などのアレルギー性鼻炎を中心にご紹介いたします。漢方医学においてアレルギーの鍵となるのは肺です。
肺は(イメージしにくいと思いますが)気を体表にふりまいて外敵から身を守る役割を担っています。この気が不足して気虚になってしまうと外邪の一種である冷えや乾燥の悪影響を受け、もともとデリケートな臓といわれる肺は急激に弱ってしまいます。
その結果、肺は本来の働きができなくなってしまい大切な津液はクシャミや鼻水という無駄な形で体外に出されてしまいます。冷たい水分の取り過ぎなどで体内に不必要な水分が溜まっていると、この症状は一層辛いものになってしまいます。
癇癪(かんしゃく)体質 育児をしているとこども達がちょっとしたことで怒ったり泣いたりして困った経験は星の数ほどでしょう。その中でも火が付いたように怒り暴れて手が付けられない状態がしばしば見られるようならこの癇癪体質かもしれません。
もともとこども達は陰陽のバランスが未熟で、しばしば陽にそのウエイトが傾きやすいといわれています。陽は火のように熱性のシンボルであり、陰は水のように冷性のシンボルという一面があります。
精神状態の安定に強く貢献している肝と心は元来、陽の状態になりやすいとされています。それが陽の側に偏りやすいこども達の場合、その傾向は一層顕著となります。クールダウンする陰の働きが弱いと、肝や心が「炎上」してイライラや怒りが止まらなくなってしまいます。
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漢方薬で体質改善!

上記ではこども達にしばしば見られる3つの体質を漢方医学の視点からご紹介いたしました。ここでは具体的にどのような漢方薬を用いて体質を改善してゆくのかを見てゆきましょう。

補中益気湯

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は気を補う有名な漢方薬であり、人参(画像の生薬です)、黄耆、白朮、大棗、甘草などから構成されます。補中益気湯のような気虚を改善する漢方薬のグループを補気剤と呼びます。人参を代表とする気を補う生薬は脾の状態、つまり消化器の状態を改善する働きに優れています。

したがって、補中益気湯は食が細くていつも下痢をしているような虚弱体質の改善に適していることがわかります。さらに補中益気湯には血を補う生薬である当帰がトッピングのように含まれているので、朝礼でスーッと倒れてしまうような貧血気味のこども達にも適しています。

虚弱体質に加えて気を補い、外邪から身を守る力の底上げも期待できるのでアレルギー体質の改善にも適しています。鼻炎などのアレルギー症状が顕著な場合はより身体を温めて、身体内の余分な水分を代謝する苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)のような漢方薬と組み合わせるとより効果的です。

六味地黄丸

前出の補中益気湯は脾(消化器)の不調によって気が不足している場合に用いる漢方薬でした。対する六味地黄丸(ろくみじおうがん)は先天的に腎におさめられている精が不足している状態を改善する漢方薬です。

地黄や山茱萸といった生薬を含む六味地黄丸は元々、高齢者の腎虚(精の不足)に対応するために生まれた八味地黄丸がベースとなっています。六味地黄丸は八味地黄丸から身体を温める作用が強い桂皮と附子を除いて「小児用」の漢方薬として生まれた経緯があります。したがって、六味地黄丸は成長や発育の遅れを幅広く改善する漢方薬となります。

具体的な六味地黄丸の薬効は幼児の場合、身長と体重の伸びが弱い、歩行や言葉の発達が遅いといった状態を改善してゆきます。学童期のケースでは疲れやすさ、風邪のひきやすさ、骨折のしやすさ、おねしょの多さ、貧血による立ちくらみなどの症状改善に活躍します。

抑肝散

抑肝散(よくかんさん)における「肝」は無論、漢方医学における「肝」なので抑肝散という名前ですが「肝炎などの肝臓病を抑制する漢方薬」では決してありません。肝は気の巡りを改善して肉体的にも精神的にも状態を安定させるという働きを漢方医学では担っています。

こども達は元来、体質的にこの肝の働きが暴走しやすいという傾向があります。これは上記でも登場した二余三不足における二余(こども達は肝と心の働きが暴走しやすい)に当たります。特に肝がうまく働かないとこども達は情緒面で不安定になりがちです。具体的にはすぐにイライラして、ちょっとしたことで怒り泣き叫んだりするような神経質な傾向が強くなります。

抑肝散に含まれている柴胡や釣藤鈎といった生薬はこの乱れた気の流れを改善します。さらに白朮などが気を補い、当帰などが血を補うことで肝の状態を安定化して根本的に癇癪が起こりにくい身体作りを行います。

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漢方薬を安全に服用するために

これまで漢方医学からみたこども達の体質、その体質によって起こりやすい症状、そして具体的に使用される漢方薬の有効性を駆け足でご紹介してまいりました。その一方で漢方薬であっても「薬」であり、自分のこどもに薬を服用させることに抵抗がある方も多いかと思います。

漢方薬はしばしば「副作用がなくて安全」「健康食品のようなものだから心配の必要はない」と考えられがちです。しかしながら、漢方薬も「薬」であり実際には副作用が存在します。その代表的なものが漢方薬を構成する生薬に対してのアレルギーです。

近年、こども達の食物アレルギーは増加傾向にあります。文部科学省の学校給食における食物アレルギー対応に関する調査研究協力者会議の結果によると平成25年の段階で小学生・中学生・高校生の4%強が何らかの食物アレルギーを持っているという結果が示されました。

生薬の一部は食品としても広く使用されており、アレルゲンになりうるものも存在します。代表的なものが小麦、ミカン(生薬名は陳皮でミカンの皮を使用)、ヤマイモ(生薬名は山薬)、ゴマ、アワなどであり、これらは漢方薬を構成する「生薬」として使用されています。

もしもお子様が上記のような食品(であり生薬)に対して強いアレルギーを持っている場合は漢方治療を選択するべきではありません。したがって、漢方薬を服用する前にお子様の持っているアレルギーを把握し、治療者にしっかりと伝えることは大切です。

アレルギーの他にも複数の漢方薬を併用することで一部の生薬が重複してしまい問題となることもあります。そもそも、漢方薬はそれを構成する生薬数が多くなると全体的に薬効が弱くなってゆく傾向があります。もし常用している漢方薬があるようでしたらこの点も治療者に伝えておきましょう。

漢方薬を服用する際の注意点をいくつか挙げてきましたが、現実的には過度に副作用を心配する必要はありません。その多くが治療者とコミュニケーションをとることで回避できるものだからです。加えて漢方薬は西洋薬と比較すれば大きな副作用の頻度は低く、長期的に服用しても依存性のようなものはありません。

お子様が漢方薬を服用する際はご両親が代わってアレルギーや服用している薬などの情報をしっかり治療者に伝えて、不明な点は積極的に治療者に聞いてゆくのが良いでしょう。

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漢方薬局へ行こう!

ここまで漢方薬の解説を行ってまいりましたが、ここからはどのようにして漢方薬を服用してゆくかというお話になります。最近ではドラッグストアでも漢方薬を多く取り揃えています。その一方でなかなかお子様に合った漢方薬を探し出すのは難しいでしょう。

そこでまずは漢方薬を専門に扱っている漢方薬局で相談して、漢方薬を始めることをお勧めします。漢方専門の薬局では多くの場合50種類以上の漢方薬を備えているでしょう。100種類以上を常備している薬局も多いはずです。さらに本格的な煎じ薬に加えて、粉薬や錠剤などの幅広い剤形を揃えていれば選択肢の幅も広がります。

一方で漢方薬に興味はあるけれどいきなり漢方専門薬局に行くのはハードルが高いと感じる方も多いでしょう。そもそも、近所に漢方薬局が見当たらないという方もいらっしゃると思います。そのような場合はまずはネットで検索してみることをお勧めします。

最近の漢方薬局はその薬局の得意分野などを積極的に情報発信しているところも多いです。グーグルなどの検索エンジンで「漢方薬局 池袋」のように「漢方薬局 地名」でまずはアクセスしやすい場所を入れて検索してみましょう。地名に加えて「漢方薬局 山手線」のように交通機関や駅名を入れてみるのも良いでしょう。

気になる漢方薬局が見つかれば来局する前に一度、電話をして混雑具合を確かめてみるのがよいでしょう。漢方薬局では症状や体質を時間をかけて伺うことが多いので予約制になっている漢方薬局も多いです。意外と漢方薬の価格がホームページに載っていないケースも多いので、それらも含めて疑問点は積極的に聞いてみるのが良いでしょう。

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最後に…

このページではこども達の健康を支える漢方薬の情報を簡単に紹介してきました。さらに詳しい漢方薬の薬効や漢方の理論などはこちらの「わかりやすい漢方薬解説・漢方理論解説」のページにも載っています。こちらでは一般の方に加えて医療従事者の方にも読んでいただきたい情報も載っております。是非ともご覧くださいませ。

わかりやすい【漢方薬解説】【漢方理論解説】
  • 一般社団法人 日本漢方連盟
  • 漢方和漢薬調査研究審議会