私たち(一般社団法人)女性とこどもの漢方学術院は漢方薬を通じて女性とこども達の健康を支えます。 | 女性とこどもの漢方学術院

わかりやすい漢方薬解説・漢方理論解説

七物降下湯(しちもつこうかとう)

七物降下湯の出典


本朝経験方(大塚敬節創作)


七物降下湯の構成生薬


当帰3-5、芍薬3-5、川芎3-5、地黄3-5、釣藤鈎3-4、黄耆2-3、黄柏2


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より
※単位は1日当たりのグラム


七物降下湯の効能・効果


体力中等度以下で、顔色が悪くて疲れやすく、胃腸障害のないものの次の諸症:高血圧に伴う随伴症状(のぼせ、肩こり、耳なり、頭重)


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より


七物降下湯の処方解説


七物降下湯は昭和を代表する漢方医である大塚敬節が生み出した漢方薬です。七物降下湯が生まれたきっかけは大塚先生自身の高血圧症による眼底出血や頭痛の治療のためでした。いくら既存の漢方薬を服用しても視界の狭まりなどの症状は治まらず、とうとう追い込まれた大塚先生は新しい漢方薬を生み出すことにしました。


四物湯の組み合わせである地黄、芍薬、当帰、川芎は止血の効果を狙って、黄柏は胃もたれ防止、黄耆は血圧降下、そして釣藤鈎は脳血管のけいれん防止を目的として配合されました。


大塚先生の起死回生の策は当り、その後は養生をしつつ失明や脳出血を起こすことも無く診察を続けたそうです。この経験から先生は七物降下湯を最低血圧の高い高血圧症患者で、体力のない方にもちいて大きな成果を挙げました。


よりくわしく構成を見てみると、七物降下湯は血虚(けっきょ)によって発生する内風(ないふう)を改善する処方であることがわかります。血虚を由来とする内風を血虚生風(けっきょせいふう)と呼びます。血虚生風とは血が不足したことで頭痛やふらつきといった頭部の症状が起こる病態です。


血虚生風の症状は特に身体や頭を動かしたときに起こりやすいという特徴があります。七物降下湯においては四物湯の部分が血虚を改善し、釣藤鈎が内風による頭痛やふらつきなどを鎮めます。黄耆は補気によって体力を向上し、黄柏は血虚によって発生した虚熱(きょねつ)由来のほてり感などを抑えることができます。


七物降下湯における補足


七物降下湯は創作された経緯から「高血圧症の漢方薬」として有名です。一方、血虚(けっきょ)があり、そこから発生した内風によるめまいや頭痛があるなら高血圧症ではない方、さらには低血圧の方が七物降下湯を服用しても問題はありません。この点が漢方薬の面白い点だと思います。


七物降下湯に含まれている四物湯を構成する生薬、特に地黄は胃腸に負担をかけやすいので消化器が弱い方だと胃もたれといった副作用が起こりやすくなります。そのような方には消化器の状態を整える六君子湯(りっくんしとう)などとの併用が考えられます。

選択画面へ戻るにはこちら

文・女性とこどもの漢方学術院(吉田健吾)