私たち(一般社団法人)女性とこどもの漢方学術院は漢方薬を通じて女性とこども達の健康を支えます。 | 女性とこどもの漢方学術院

わかりやすい漢方薬解説・漢方理論解説

腎(じん)と膀胱(ぼうこう)とは

腎(じん)のはたらき


腎は漢方医学(中医学)において生命エネルギーの結晶とも呼べる精(せい)を蓄えたり、膀胱(ぼうこう)と協力して排尿などの水分代謝を担っています。しばしば腎のはたらきは精のはたらきと同一視されます。精とは生殖活動、成長や発達、骨・髓・脳の形成などに必要な物質です。他にも精は気や血(けつ)に生まれ変わることもできます(精についてのくわしい解説はこちらをご覧ください)。


水分代謝に関しては身体内で代謝を受けた不要な水分は腎と膀胱を介して尿となり排泄されます。一方でまだ利用ができる水分、つまり津液(しんえき)は腎の力で再び身体内を巡ってゆきます。このはたらきを蒸騰気化(じょうとうきか)と呼びます。したがって、水分代謝には五臓において脾(ひ)と肺(はい)、そして腎が深く関わっていることになります。水分代謝ではありませんが、呼吸の面で腎は吸気、肺は呼気をコントロールしています。


その他に腎は耳と髪、そして二陰のはたらきも底支えしています。二陰とは尿道と肛門を指した言葉ですが排泄全般と考えてよいでしょう。腎が充実していれば聴覚は保たれ、髪は抜け毛や白髪が少なく、排尿や排便もスムーズに行われます。


腎の異常


腎において起こる代表的な異常としては腎虚(じんきょ)、腎陽虚(じんようきょ)、腎陰虚(じんいんきょ)、腎気不固(じんきふこ)、腎虚水氾(じんきょすいはん)などが挙げられます。


腎虚(じんきょ)とは

腎虚とは腎に蓄えられている精(しばしば腎精と呼ばれます)が不足した状態を指します。より厳密には精が不足した状態自体を腎精不足(じんせいぶそく)、腎精不足(じんせいぶそく)によって生じてしまった機能面の低下を腎気虚(じんききょ)と表現します。しかしながら、腎精不足と腎気虚は不可分なものであり、多くの場合は両者をまとめて腎虚とします。


腎虚の具体的な症状として、乳幼児期においては「起立の遅れ」「歩行の遅れ」「言葉の遅れ」「発毛の遅れ」「歯の生え揃えの遅れ」という五遅(ごち)に代表されます。その他にも泉門の閉鎖の遅れ、夜尿症、骨や筋肉の形成不全なども腎虚に含まれます。


成人以降の主な腎虚の症状としては疲れやすさ、腰痛や腰の重だるさ、頻尿や夜間尿、記憶力の低下、視覚や聴覚の低下、精力・性欲の低下(男性の場合はED)、白髪や抜け毛の増加、女性の場合は早期の閉経や不妊症などが挙げられます。精は生殖活動もつかさどっているので若年層の男女における原因不明の不妊症には腎虚が根底にあると考えられます。


腎虚を改善する漢方薬は乳幼児期の場合は六味地黄丸(ろくみじおうがん)、成人の場合は八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などが代表的です。


腎陽虚(じんようきょ)とは

腎陽虚とは腎における気の力が低下し、温煦(おんく)作用が充分に発揮できなくなった状態を指します。この温煦作用とは気の持つ機能のうちで身体を温めるはたらきを指します。腎陽虚の具体的な症状としては腎気虚の症状にくわえて足腰の冷え、薄い尿が多く出る、軟便、顔の青白さなどが現れます。


腎陽虚からしばしば腎だけではなく脾における気の不足である脾腎陽虚(ひじんようきょ)の病態に進行することがあります。脾(ひ)は飲食物から気などを生み出す中心的な臓です。脾からつくられた気の一部は精となって腎精を補充します。一方で腎精から生まれた気は脾のはたらきを後押ししてさらなる気の生成を促します。このように両者は相互依存関係が強い臓なので、どちらの不調も結果的には腎と脾における気の不足、つまり脾腎陽虚に陥ります。


腎陽虚を改善する漢方薬は八味地黄丸(はちみじおうがん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、これらの他に鹿の角である鹿茸(ろくじょう)を含んだ生薬製剤などが代表的です。脾腎陽虚による食欲不振や腹痛なども目立つようなら腎陽虚に対応する漢方薬にくわえて真武湯(しんぶとう)や附子人参湯(ぶしにんじんとう)の併用が考えられます。


腎陰虚(じんいんきょ)とは

腎陰虚とは腎における血(けつ)や津液(しんえき)が不足した状態を指します。腎陰虚の具体的な症状としては腎気虚による症状にくわえて手足のほてり、口の渇き、寝汗、性欲の仮性亢進(男性の場合は勃起はするが射精できない、快感が得られない)などが挙げられます。


腎陰虚は肝(かん)における陰虚も併発する肝腎陰虚(かんじんいんきょ)に移行しやすいことが知られています。この理由として腎は血に生まれ変わることのできる精を蓄え、肝は血を蓄えています。このように両者は血を通じて結びつきが強い臓であり、そのために肝腎同源(かんじんどうげん)とも呼ばれるほどです。


腎陰虚を改善する漢方薬は知柏地黄丸(ちばくじおうがん)、杞菊地黄丸(こきくじおうがん)、肝腎陰虚による眼の乾燥感や筋肉のひきつりなどが起こる場合は腎陰虚を改善する漢方薬に四物湯(しもつとう)の併用などが考えられます。


腎気不固(じんきふこ)とは

腎気不固とは腎における気の不足によって、気の固摂(こせつ)作用が充分に発揮できない状態を指します。固摂作用とは身体とって必要なものや一時的に蓄える必要があるものをしっかりと保持するはたらきです。腎気不固の具体的な症状としては頻尿、尿失禁、頻回の便通、便失禁、発汗過多、遺精(精子の漏れ出し)、早産や流産などが挙げられます。


腎気不固を改善する漢方薬は六味地黄丸(ろくみじおうがん)や八味地黄丸(はちみじおうがん)と一緒に桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)との併用などが代表的です。桂枝加竜骨牡蛎湯には不安感や疲労感を改善する力もあるので、腎気不固にくわえてそのような症状もあるようなら最適といえます。


腎虚水氾(じんきょすいはん)とは

腎虚水氾とは腎における気化(きか)作用が衰えている状態を指します。このケースの気化作用とは余分な水分を尿として排泄することを指します。腎虚水氾の具体的な症状としては下半身を中心とした全身のむくみ、尿量の減少、排尿困難などが挙げられます。


しばしば腎虚水氾は腎虚水泛(この読みも「じんきょすいはん」です)とも表現されますが両者の意味は同じです。なお「氾」と「泛」の文字にはそれぞれ「水がひろがる」「水があふれる」という意味があります。


腎虚水氾を改善する漢方薬は腎虚を改善する漢方薬に五苓散(ごれいさん)、猪苓湯(ちょれいとう)、真武湯(しんぶとう)などの併用が考えられます。


膀胱(ぼうこう)のはたらき


腎は五行論において水に属し、六腑のうち膀胱と表裏の関係を築いています。膀胱のはたらきは腎と協力しながら蓄尿と排尿をおこなうことです。この点から漢方医学(中医学)における膀胱の概念と西洋医学的な膀胱の機能はほぼ同じと考えてよいでしょう。


膀胱の異常


膀胱において起こる異常は膀胱湿熱(ぼうこうしつねつ)のみと考えて差し支えありません。この理由として膀胱の担っている役割の大部分が腎と重複しており、膀胱が関係する異常も腎の異常とみなされることが多いからです。したがって、独立した膀胱の異常となると膀胱湿熱くらいしか残らないことになります。


膀胱湿熱(ぼうこうしつねつ)とは

膀胱湿熱とは膀胱に熱を帯びた水湿(すいしつ)が侵入している状態を指します。水湿とは津液がスムーズに流れなかったことで生まれる病的産物です。膀胱湿熱の具体的な症状としては排尿時の痛み、急に現れる尿意、頻尿、残尿感、尿が濃い黄色に濁る、血尿、下腹部の違和感、腰痛、発熱などが挙げられます。膀胱湿熱における多くの症状は膀胱炎や尿路結石でみられるものです。


膀胱湿熱を改善する漢方薬は猪苓湯(ちょれいとう)、五淋散(ごりんさん)、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)などが代表的です。


選択画面へ戻るにはこちら

文・女性とこどもの漢方学術院(吉田健吾)